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『君だけ…』


「花沢類…またこんなところで寝て…風邪ひいちゃうよ…」

先ほどまで射していた光も今は無く、空には薄ねず色の雲が広がっていた。
非常階段の壁に背をもたせ掛けて眠る類を起こしてしまわぬよう、そっと手にしたひざ掛けをその身体に掛ける。

風が無く日差しがあればそれなりにポカポカと温かい非常階段も、今日はどんどんその熱を下げていた。

起きている時には直視することなどできない類の寝顔を、つくしは泣きそうな顔でじっと見つめていた。
―いつまで、花沢類とこうしていられるだろう…

やがてつくしは持参した弁当を広げると小さく“いただきます”と手を合わせ食べ始めた。
一口、二口と口に運んで口腔内のものを咀嚼し飲み込んだところで、つくしは空を仰ぎ見て一つ溜息を吐いた。



牧野がやって来たことには気が付いていた。
俺を気遣ってひざ掛けを身体に掛けてくれる時に牧野の甘い香りがして、俺は眠ったふりを続けていた。

牧野が何かをぼそりと呟いたけれど、いつになくそれは小さくて…聞き取れなかった。

しばらくして牧野が溜息を吐いた…

―それは司を思って…?

封印したはずの想いがじわじわと身体を這い上がってくる。

相手が司だから俺は身を引いた。
牧野が司を望んだから俺は想いを封印した。
あんたには笑っていて欲しい…
幸せになってくれないと…俺の閉じ込めた想いは報われない…



「溜息なんかついてどうしたのさ…?」
目を閉じたまま、俺は訊ねる。

「は、花沢類…起きてたの?」
「ちょうど目が覚めそうになってた時に牧野の大きな溜息が聞こえたから…」
「あ、あっ、ご、ごめん…ちょっ、ちょっと疲れちゃってて…へへっ」
「ふーん、俺はまた司の事でも考えてたのかと」
「あーっ、ないない。だってあいつからはもう1年くらい電話一つないんだよ。便りが無いのは元気の証拠って言うじゃない? 曲りなりにも魔女も西田さんも付いてるんだし、それこそ何の心配もないよ」

「…牧野は寂しくないの?」
「これだけ音沙汰無いといっそ清々しくてさ、寂しいなんて気も起きないよ。それにあたしは毎日の生活の方が大問題。せっかっく通えてる大学だから勉強も頑張らないとだし…」

意地っ張りで強がりな牧野。

「…無理しなくていいのに…」
「本当に無理なんてしてないよ」
「じゃあ、さっきの溜息はなんなのさ?」

「だからこの頃ちょっと疲れてって言ったじゃない。心配かけてごめんね」

俺が牧野の目をじっと見ていると、少し顔を赤くして視線を逸らす。
俺があんたの事をどれだけ見てきたと思ってる?
何かを隠してることぐらいお見通しだよ。
でも追及はしないでいて上げる。
あんたは追い詰めたら何するか解んないからね。

この後1限だけの講義をサボらせて、俺は牧野を連れて外に出た。

「どこに行くの?」と不思議がる牧野を連れて俺は車を走らせた。
しばらくすると例によって牧野は眠ってしまった。
疲れていると言ったのも本当だろう。
大学の学費は司が出したとはいえ、牧野家の家計は相変わらずだったから、彼女は相変わらずバイトに忙しい。

目的地に着く頃、空一面を覆っていた雲が切れ始め、日差しがところどころに射している。
初冬の灰色の海が日差しを反射してところどころ金色に輝いている。

「うわーっ、海に光が反射して綺麗だね?」
「少しは気分転換になった?」
「もちろん! 疲れも吹っ飛ぶよ。ありがとう、花沢類!」

いつもの明るい彼女の笑顔が戻って、俺は少しほっとする。
波打ち際で子供の様にはしゃぐ牧野を俺は飽きることなく見つめていた。



司が迎えに来るその時まで…せめてそれまでは俺が牧野の笑顔を守りたい。
叶う事なら…
あんたの笑顔を守り続けるのは俺でありたいけれど…



つい先日、珍しく父親から電話があった。
次の春から本格的に仕事を覚えろという話だった。
今までのように牧野に会う事は難しくなるだろう。
いきなりフランスに行けと言われなかっただけまだましだ。
このことを牧野にいつ話そうか…それを考えると、この俺がなかなか寝付けなくて毎日寝不足だった。

「牧野、陽が暮れて来たからそろそろ帰ろう」
俺の声に振り向いて笑った牧野はどこか寂しそうだった。
また司を思い出させてしまったんだろうか…

「連れてきてくれてありがとう、花沢類。今日の事絶対忘れない…」

―それは…どういう意味?
心に浮かんだ疑問を口にすることはできなかった。
俺は何も気づかないフリをする。
春まではまだしばらくある。
もう少し…もう少しだけ牧野に告げるのは止めておこう。



いつかこうして会う事もままならなくなると解っている。
耐えられるかどうかわからないけれど、俺は去ることしかできない。
“永遠に君を愛してる”
言えない言葉を心の中に飲み込んで消さなければならないのかな…?
そうやってずっと君なしに生きて行っても…俺の心の中には君だけ


Fin.



****************
揺れるつくしの気持ちに気付かないままのヘタレな類くんです。

“類くんを幸せに”が基本の私ですが、切ない類くんはやはり捨てがたい。

今回も韓国版『花より男子~Boys over flowers~』OSTの『涙が出る』に乗せてお送りいたしました。
以前、韓国版のSSのイメージにも使用しましたが、今回は日本版で。

イ・サンゴン『涙が出る』
動画はなぜか「個人の趣向」ですが、「花男」OSTの挿入歌です。



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花より男子《日本版:類つく、韓国版:ジフとジャンディ》や韓国ドラマの二次小説を書いています💕

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