「ハラボジ」
「ジャンディ、よく来てくれた」
「そんなに私に会いたかったんですか?」
「こいつめ、自惚れるな。来たついでにジフを連れ出してくれ。デカい図体でくっついていられると息が詰まる」
元気になったハラボジは相変わらずの口の悪さで、でもそれでかえって安心させられる。
それが嬉しくてジャンディと目配せを交わした。

「早く出て行かんか。外は暖かい春だぞ。いい若者が何をしとるんだ。早くせんか」
ジャンディを促して外へ出て行く俺達の後姿にハラボジが満足そうな笑みを浮かべていることなど気付いていなかった。
財団のアートセンターが病院のすぐ近くだったからそこに二人で行って、少し元気のないジャンディにピアノを弾いてあげると、いつものようにニッコリと笑ってくれた。
ジャンディの笑顔がほんの少しいつもと違うことに俺は気付かなかった。
誰よりも彼女の事を見ていたはずなのに…
陽が暮れて家に帰る道すがら、漢江のほとりを散歩する。
「守りたいものなんて俺には無かった。でも君に出会ってから増えて行った。ハラボジ、診療所、財団、そして…」
足を止めてジャンディを見た。
「君だよ」
俺の告白にジャンディが俺を見た瞬間、漢江にかかる橋から噴水が始まり、彼女の視線がそちらに取られる。
あまりの間の悪さに小さく溜息を吐き、ジャンディの横に並んでライトアップされた噴水の乱舞を見ていた。

*
数日後無事退院となったハラボジを連れて帰宅する。
上機嫌なハラボジはジャンディの姿が見たくてしようがないらしい。
「ジャンディ、お祖父さんのお帰りだぞ。どこにいるんだ?ジャンディ」
だがいくら呼んでも部屋の方をうかがってもジャンディの気配がない。
ふと落とした視線の先にテーブルに置かれた封筒があった。
イヤな予感がしてそれを手に取り中を確かめる。
中には手紙が入っていた。
―挨拶もせずごめんなさい。
お世話になった恩は
決して忘れません。
お二人ともお元気で
クム・ジャンディ―
それを読んだ瞬間、俺は外へと飛び出していた。探す当てもないのに…
*
結局ジャンディの行方は解らないまま日々が過ぎてゆく。
まだ本調子でないハラボジに代わり俺が財団の仕事を手伝っている。そのために経営学の勉強もしながら。
いつしか財団の仕事が終わると診療所のハラボジを迎えに行くことが日課になっていた。
ウビンやイジョンも協力してくれていたが、ジャンディを探し出せていなかった。
ジュンピョがかつてないほど荒れていると聞かされていたが、二人がジュンピョよりも俺を心配しているとは思ってもいなかった。

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