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とぎれた夜をつないで 後編


街路樹が色づき始め風が冷たさを帯びてきた頃、久しぶりに仕事から早く解放された俺は出先からの帰りの車中から見るともなしに外を眺めていた。

枯葉舞う歩道を小走りに走る黒髪の女性に目を奪われた。
見間違えるはずがない愛しい女性の姿に、急いで運転手に車を停めさせ飛び出した。

件の女性の姿は消えていた。
女性の向かっていた方向に視線を走らせると大きな公園の入り口が目に入る。
“北陸フェア開催中”と書かれた幟が揺れている。

俺は公園の中へと進んで行った。
大勢の人々が行きかい混雑する中人を避けながら進む。
俺には確信があった。ここに彼女はいる。

特産品をアピールするブースが立ち並ぶ中、『加賀野菜』とかかれたブース近くまで来たとき、
「松本さん。五郎島持ってきてくれる?」
「はーい。あっ、でももうあと一箱で終わりですよ」
「一箱あれば充分よ」

艶々とした黒髪を後ろで簡単に一つに束ねた『松本さん』と呼ばれたその人は、独楽鼠のように動き続けている。

彼女から目が離せないままそのブースに近寄る。
彼女に声を掛けた年配の女性はこの場に不似合いなスーツ姿の俺を唖然として見ていた。
突然の沈黙を不思議に思った彼女が
「どうしたんですか?坂井さん?あっ、いらっしゃいま…せ…」
蹲って作業をしていた彼女が低い位置で振り向いて俺の存在に気付き、発した声はその視線が上がると同時に小さくなっていった。

言葉を失った彼女の顔を窺いながら隣の女性が
「松本さん、お知り合いの方?」

「久しぶり…松本さん…?」
「お…お久しぶりです…」
「仕事が終わったらちょっと話…できないかな?」
「えっ、あの…」

年配の女性が躊躇する彼女の代わりに事もなげに答えた。
「知り合いに久しぶりに会ったんだからいいじゃない。どうせこの後は片づけて明日帰るだけなんだから。行ってらっしゃいよ」
そして俺に向かって
「このフェアは今日が最終日で4時までなんです。もうそろそろ店じまいして片づけるから5時前には終わりますからちょっと待ってあげて下さいな」

俺はその人に礼を述べ、公園にあるカフェで待っているからとその場を離れた。


5時近くになって牧野はいかにも気が進まないと言う表情で現れた。
俺は彼女の姿を認めるとすぐに立ち上り席を後にする。
彼女の腕を軽く掴み向きを変えさせるとカフェを出た。

「ちょ、ちょっと、花沢類。ここで話すんじゃないの?」
「落ち着いて話したいから…」
「えっ、ちょっと…」

そのまま迎えの車に彼女を乗せ、自分も乗り込む。
俺のマンションの前で運転手が車を停める。

「…ここは…?」
「俺のマンション。今、一人暮らししてるから…」

ほとんど口をきかなかった俺の様子に戸惑っている様子の彼女。

「一緒に来て。ちゃんと話を聞きたいから」

表情を強張らせながらもこくりと頷き俺に着き従う彼女。
専用エレベーターに乗り最上階に着くと真正面に見える玄関のロックを開錠して彼女を中へと促す。

おじゃましますと小さく呟くように口にして入る彼女の変わらなさが少し嬉しかった。

「元気だった?」

リビングのソファに向かい合って座り切り出した俺だったが、牧野が“松本さん”と呼ばれていたことが気になっていた。

「牧野?いや…“松本”だっけ?…結婚…したの…?」
「え…いや…う、ん…」
「…?どっち、なの…?」
「え…と…向こうでの偽名…なの…」
「偽名?」
「うん…」
「どういうこと…?話してよ…」


司に別れを告げた牧野は俺達F4から離れようと全財産を持って宛もなく電車に飛び乗ったのだと言った。
行きついたのは北陸の過疎地。訪れる人も稀なその土地で暮らす年配の住人達に歓迎され、落ち着き先を決めるまでの短期滞在だからと母親の旧姓を名乗っていたという。
だが行き先を探していると言う牧野に土地の人々はそこでの暮らしを勧めた。ちょうど農家が人手を欲しがっていたこともあり、詳しいことも聞かれずに働く場所を得ることが出来たという。そして人々も若い牧野が何か理由ありなのだろうと詮索せずに、空いた家を貸してくれたのだと。


道理で俺たちの捜索網に引っ掛からなかったわけだ。
人の良い住民たちのおかげで、牧野は住民票を移すことなく、偽名のままで暮らすことが出来ていたのだから。そしてささやかながらも日々の糧を手にできた牧野は預金にも全く手を付けずに暮らしていたのだから…

「帰っておいでよ、牧野」
「……」
「みんな待ってるよ。あんたの親友も三条も。あきらや総二郎だって。それに大学休学中でしょ?」

「……ぃ・は…?」
涙を一杯に溜めて蚊の鳴くような声で彼女が何かを聞いた。

「えっ、何?牧野」
「…花沢…類…は…?待って…くれてるの…?」

何を言い出すのかと思えば…
「当たり前じゃん…俺が誰よりも…一番、あんたを待ってる…」

途端に両目からポロポロと涙を零しながら泣きじゃくる牧野。
「あ、あたし…帰って…来て…いいの…かな…?」

「うん。帰っておいで、俺のところに」

堰を切ったように嗚咽しながら牧野が俺の胸にしがみつく。
「あ、会いた・かった…ヒクッ…花沢・類・に…会いた…かった…の…
もう…会えない、かと、思って、死ぬ、ほど…寂し、か、った…」

「牧野…一緒にいよう…今まで一緒に居られなかった時を繋いで…これから先もずっと…」


《醒めない夢に身体を埋め 寂しさが消えるように》



Fin.





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