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『菊の節句』後編


『菊の節句』後編


「父さんと母さんがいると、この家では俺なんて忘れられるみたいだね?」
リビングの入口から拗ねた声が聞こえてきた。
「類。お帰りなさい」
嬉しげに着物の袖を翻して駆け寄るつくしを満面の笑みで手を広げて抱き留める類。
「ただいま、つくし」
言うが早いか類の唇がつくしの唇に落ちる。
さすがに軽く触れただけで離れはしたが、つくしは真っ赤だった。
「類! お父様とお母様の前なのに…」
「いいじゃない、夫婦なんだし。父さんも母さんも俺達が仲睦まじい方が喜ぶよ。
そうでしょう?」

苦笑しながら慧が返す。
「それは勿論だが…私達にはお帰りの一言もなしかね?」
ハァとため息を吐いて不承不承口を開く。
「父さん、母さん、お帰り。俺を仕事で遠ざけて…つくしとはゆっくり話できたでしょ?」

くくっと喉の奥で笑って慧が答えた。
「解っていたかね? 母さんがつくしさんとゆっくり話したがっていたからね」
その言葉にむっつりと言い返す。
「母さんだけじゃなくて父さんもでしょ?」

そのやりとりをハラハラしながら見ているつくしに気づき、美緒が二人に声をかける。
「あなた、それに類も。いい加減になさったら? つくしちゃんが心配しているわよ」
「お母様…」
心配そうに美緒を窺うつくしに
「つくしちゃん。気にしないでね。慧さんはこうして類が口をきいてくれるのが嬉しいのよ。しようのない人たち」

美緒に図星を指されて気まずそうな慧を尻目に類が告げた。
「ひとまず失礼して着替えてきますよ。父さんと母さんも帰って来てそのままでしょう?着替えられえたらいかがです?」
類の言葉を待っていたかのように佐村が動いた。
「旦那様と奥様のお着替えは、僭越ながらわたくしが準備させていただいております。お手伝いさせていただきますのでどうぞお召し替えを」
つくしが類を自室へと促しながら「類のも用意してるのよ」と小さく告げた。

*

全員が和服に着替え終わると和室へと促された。
久しぶりに足を踏み入れるそこは花沢家の日本庭園に面しており、庭が見えるように広縁の手前の障子は開けられていた。
庭には篝火を模した照明が灯され、浮かび上がる庭園は幻想的な雰囲気を醸し出している。
そして室内の床の間には菊が生けられた薄端と秋草が描かれた水墨画の掛け軸。

「…ほう…これは風流だね」
慧が感嘆の声を上げる。
美緒は生け花を目に停め訊ねた。
「これはつくしちゃんが生けてくれたの?」
「はい。まだまだ未熟でお恥ずかしいのですが…」
謙遜するつくしに美緒が笑顔で告げた。
「いいえ、そんなことは無いわ。つくしちゃん自身を現すように凛としているわよ」
「ありがとうございます。お母様」

やがて膳が運ばれそれぞれが座についた。
「今日はどういう趣向なのかね?」
穏やかに訊ねる慧につくしが話し始めた。
「今日、9月9日は『重陽の節句』別名『菊の節句』と言われ、邪気を払い長寿を願う日だそうです。菊に真綿を着せて菊の露を含ませたもので身体を拭くと健やかに過ごせるとも聞きました。佐村さんに手伝って頂いてそれも用意してみました」
「美しい日本の風習を私達の為に準備してくれたのね。ありがとう、つくしちゃん」
美緒の言葉に慧も頷いている。

そこへ佐村が酒器と盃を盆に載せて入って来た。
まず慧の前に座るとその盃を一つ差し出す。
受け取った慧は不思議そうにその盃を見つめた。
一輪の小菊が入ったその盃に佐村が酒器から酒を注いだ。
途端に立ち上った菊の香り。
「ほう、これは何かね?」
応えて佐村が言う。
「邪気を払い長寿を願う『菊花酒』とつくし様に伺いました。つくし様のお気持ちです。ぜひ召し上がってくださいませ」
続いて美緒に、そして類へと佐村は盃を満たしていく。
そして最後につくしに。
「ありがとうございます。縁起ものですから佐村さんたちも飲んでくださいね」
「はい、つくし様。わたくしたちもあちらでご相伴させていただきますので」
それだけ告げて佐村は退室した。

「皆の健康を願ってくれるつくしさんの気持ちが嬉しいよ。有難く頂こう。乾杯」
慧の声に合わせて家族4人が盃を干した。
それから和やかに食事を楽しんだ。

やがて食事が終わり膳が下げられると入れ替わりに佐村が竹籠を持って現れ、それをつくしの手に渡した。
「佐村さん、ありがとうございます」
礼を述べてつくしは広縁のサッシを開けて沓脱石に用意された草履をはき庭に降りた。
「つくし様、足元にお気を着けください」
つくしを気遣う佐村に類が声をかけた。
「何をするのか知らないけど、俺も行くよ」
すると予想していたのか、類の草履も沓脱石に用意されていた。

つくしの傍に行き「何をするの?」と訊ねると、「着せ綿を取りに行くの」と答える。
こおろぎの鳴き声が聞こえる庭の一角にある菊の花に、確かに綿が着せられていた。
それをつくしは丁寧に取り竹籠に入れていく。
類も同じように綿を手にすると、それは夜露でしっとりと濡れていた。
ひとつひとつ手に取りながら嬉しそうにつくしが話し始めた。
「これだけ濡れていれば、身体の一部だけでも拭えるね? お父様にもお母様にもいつまでもお元気でいて頂きたいもの。もちろん類もよ」
薄暗い庭でもその笑顔は類にとって何よりも眩しいものだ。
「ありがとう、つくし」
「なにが? あたりまえのことでしょう? だって一番愛する人のご両親なんだもの」
「つくし…」
「さあ、これで全部。早くお父様とお母様のところへ戻ろう?」

仲睦まじい二人を見ながら、類の両親は心から喜んでいた。
かつて心を閉ざして感情を失くし、他人に興味を持たず、後継者を諦めねばならないかとさえ思った一人息子が、つくしゆえに心を取り戻しその能力を使う事を決めた。
道明寺楓のような考え方をしなくて良かった、と。

笑顔で部屋に戻った二人。
つくしは竹籠の中の着せ綿を見せながら嬉しそうに話す。
「この綿には一晩かけて菊の露が浸み込んでいます。菊の露で身体を拭うと健康と長寿になると言われているそうです。ですから、お父様もお母様も身体のどこか一部で良いですからこれで身体を拭って下さい。ただの迷信かも知れませんけれど…」
「ありがとう、是非そうさせてもらうよ。なあ母さん?」
「ええ、つくしちゃんの気持ちが籠ってますもの。きっと効き目があるわ」
「それに二人のこともまだまだ見守らないとな」

慧の言外の言葉をくみ取った類は、
「じゃあ、期待に応えられるようにもっと頑張るよ。父さん」
訳のわからないつくしはきょとんとしている。
「つくしさんにあまり無理をさせるんじゃないぞ? 授かりものだからな」
そこでようやく意味するところが解ったつくしは真っ赤になっていた。

そんなつくしを横目にふっと笑って類が宣言した。
「そんなに先の事じゃないと思いますよ。期待しててください」

菊の香りと共に秋の夜長は更けて行った。


Fin.

1.jpg

すこし時期がずれましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?

ハラハラドキドキのお話や、切ないお話も書きたいとは思うのですが、
どうしても穏やかで幸せなお話に流れてしまいます。
代わり映えしなくてすみません。

これからもよろしくお付き合いくださいませ。

まーこ

******
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コメント

コメント(4)
まーこ
Re: 菊の節句
みっちゃん様
お読み頂いてありがとうございます。
今年は季節物の短編もろくに書けていない状態ですが、読み返して頂けるのは本当に嬉しいことです。
ご期待に添えるように頑張ります。

まーこ

2019/09/26 URL 編集返信

菊の節句
まーこさんの小説はどれも心温まる内容ですね。この菊の節句も何度も読ませて頂きました。日本古来の菊の節句のことを初めて知りました。ありがとうございました。特に菊の節句つくしを思ってくれる類の両親の優しい一言一言、使用人頭の佐村さんも心からのつくしをサポートしてくれる。本当に落ち着いたつくしの品があり可愛らしさが良いですね。類と両親の昔はできなかった親子の愛情表現も良いですね。これで両親も類も楽しみに待っている愛の結晶が誕生する続編があったら良いなと思いました。

みっちゃん

2019/09/26 URL 編集返信

★★ない様 コメントありがとうございます
当ブログをご訪問頂きありがとうございます。
9/9 気が付けば、既に当日。お話を思いついたものの、遅かったか、と一旦は諦めたものの、やっぱり書きたくて、遅まきながらのUPでした。
お気に召したようで、幸いです。
これからもマイペースではありますが、頑張ります。

まーこ

2017/09/13 URL 編集返信

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2017/09/13 編集返信

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