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天国の記憶12


東京を遠く離れ、自動車免許を持たないつくしでも不自由することの無い、公共交通機関がそこそこ充実した地方都市で、新たな生活が始まった。

何も言わず美作を去ってきたことに良心は咎める者の、美作夫妻やあきらの過剰な好意や愛情から離れられたことに気持ちが軽くなることは否めなかった。
昼間は会社で働き、自分の事だけを考える生活は、ここしばらく味わう事の出来なかった安らいだものだった。

会社は地元の中堅企業だったが、社長だけがつくしの事情を知らされていた。
そのおかげで社内では偽名で通すことが出来ている。
用意された偽名は、さすがのつくしもやや引いてしまうものだったが…

「若葉ちゃーん。悪いけど、この資料急いでまとめてもらえない? 2時間後の会議で使いたいの。お願い」
「解りました。2時間後ですね」
「助かるわー」
「室長、せめてもう少し早く言ってあげればいいのに。ねえ青木さん?」
「それができればそうしてるわよっ!」
「大丈夫ですよ。何とか間に合わせますから」

“青木若葉”
それがつくしに用意された名前。
何とも言えないネーミングセンスだが、着けた本人は「草みてえな名前だから、青っぽい名前がいいだろ?」とのこと。

両親が新緑が好きだから青木の姓に引っ掛けた、と説明している。
―でも本当に“青木”だったらウチの両親ならあり得たかも…?


3ヶ月が過ぎ会社にも仕事にも慣れた頃、社長から呼びだされ部署の仲間が心配する中つくしは社長室へと向かった。
“青木さんが来ました”と秘書が取り次ぎ促されるまま室内に入ると、ソファにコケティッシュな美女が座っていた。
年齢的に見て社長の妻ではなさそうなその女性を誰だろうと訝りながらもそつのない挨拶をした。

「あーっ、やっぱり写真で見た通りの印象! 会いたかったーっ! 初めまして、道明寺滋です。よろしくね? “若葉”ちゃん」
「えっ、ど、道明寺…さ・ん?」

「青木君、おどろいただろうがまあ掛けたまえ」

驚くつくしを椅子に掛けさせ社長が説明を始めた。
道明寺の妻でもあり常務でもある滋がつくしを自分の秘書に望んでいるという。

もともと司の依頼でつくしを引き受けた社長だったが、表向き道明寺との取引は無く関連性は全く見えない。だが司が事情のあるつくしを託すのだから、見えないところで何らかの繋がりがあることは想像に難くなかった。
ヘッドハンティングされるほどつくしに実績があるわけではない為、道明寺への移籍の表向きの筋書きが必要だった。
学生時代に家庭の事情で転校し、滋もすぐに海外暮らしとなったため、連絡がつかなくなっていた後輩であるつくしがこの会社に勤めている事をひょんなことから知り、自分の秘書にしたいと望むお嬢様育ちの道明寺夫人の気まぐれと言う筋書きだ。
滋の立場を考えて、“それではあんまりでは…”というつくしに“気にしない、気にしない”とあっけらかんとした滋。

あっという間に話しは進み、社内にもその噂は瞬く間に広がった。
「すごい人と知り合いだったのねー、若葉ちゃん」
「一時期日本に居た時に少しだけ同じ学校だっただけなんですけど、先輩はよくしてくださって…」と打ち合わせ通りの筋書きを告げる。
「でも若葉ちゃんがいなくなると寂しいわー」
「せっかく一緒に仕事できたのにな」

口々に退社を残念がってくれる社員たちが有難くもある一方で偽っている罪悪感もあり、急なことであることにかこつけて早々に挨拶を切り上げ職場を辞した。


玄関で待つ滋のところに急ぐと前に停まった高級リムジンへと促され、戸惑いながら乗り込む。
車が静かに走り始めると滋が口を開いた。

「びっくりしたでしょ? 牧野つくしさん? うーん、堅いなぁ…ねっ、つくしって呼んでいい?」
「あっ、は、はい!」
「そんなに畏まらないでよぉ。滋ちゃん、そんなに怖くないよぉ」
「あ、あの…どうして道明寺さんの奥様が…?」

つくしの聞きたい事に気付いたのか、滋が勢いよく話し始めた。

「あたしも事情は全部知ってるのよ。あたし達…あっ、司とあたしね。親が決めた結婚だったけど、あたしは初めて会った時から司が気に入っちゃったし、司もちゃんとあたしに向き合ってくれてきちんと信頼し合える夫婦になったの。だから今回の事も司はきちんとあたしにだけは話してくれてたの。
でね、F3にばれたら元も子もないから少し時間を置いてほとぼりが冷めてから道明寺に隠そうってことにしたの。
滋ちゃんの秘書ならプライベートジェットで一緒に移動しても何の不思議もないし、一般機だと美作や花沢に調べられちゃう危険性があるからねー」

滋が自分の事情を知っていて夫婦仲も良いことは理解できたが、それ以外の話が理解できず曖昧な表情のつくしであったが、そんな事にはお構いなしに滋の話は続く。

「司と結婚したと言ってもF3とはそんなに会う事も無いから、あたしが何をしようがF3のレーダーに引っ掛かる可能性は極めて低いだろうってとこでは司も同じ意見なの。
司が動くとバレちゃう可能性が高いしね。それにあたしも普段はアメリカが本拠地なの。だからつくしには一緒にアメリカに行ってもらうね。マンションの荷物や何かは全部手配済みだから、このまま空港に向かって飛ぶわよ」
「えっ、えーっ!? あ、あたしパスポートも無いですよ」
「大丈夫! 全部用意してるから!! まかせて!!」

つくしは呆気にとられたまま、滋に連行されていった。


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天国の記憶11


「ただいま」
「あっ、つくし。お帰りーっ。あんたいいタイミングで帰って来たわね」
「いいタイミングって何よ?」
「実はね…」

人は良いが要領が悪く真面目だけが取り柄のつくしの父親は、いわゆる“うだつが上がらない”人間だった。
出世コースには縁がなく、人の良さからどこの会社に就職してもいざという時のリストラ要員に真っ先に入れられているのではないかとさえ思えた。
だが、そんな父の長所を見い出し、うちで仕事をしないかと声を掛けてくれた人がいるという。

「会社でね、借家まで用意してくれてるのよ。成果じゃなくて、毎日の管理をきちんとすることが重要な仕事なんですって」
「パパも、これなら急き立てられることなくじっくり自分のペースで仕事ができると思うんだ」
「パパ、良かったじゃない。ママもこれでパートに出なくて済むかもね?」
「そうなのよ。生きてればこんな良い事もあるのね? あんたと美作さんのこともそうだけど。あっ、そうだわ。美作社長にご連絡しておかなくていいかしら?」
「社長じゃなくて会社の人事部よ、ママ。会社にはあたしがちゃんと届けておくから、新しい住所が解ったら電話して」
「分かったわ。あんたの帰る次の日に引っ越しなのよ」
「急な話なのね。でも良かった。今度は新しいところに帰るのが楽しみ」


「じゃあ、パパ、ママ、進、元気でね。新しいところで頑張ってね」
「つくしも身体に気をつけて」
「美作さんの皆さんによろしくね」
「姉ちゃんも元気でね」

笑顔で家族と別れ、つくしは駅には向かわず地元の人もほとんど通らない山沿いの海岸へと向かった。
そこに目立たないワゴン車が一台止まっている。
事前に渡された携帯に登録された番号に電話をかけると、そのワゴンから女性が降りてきた。
「牧野様ですか」と確認だけして無言で乗車を促され、やはり無言でワゴンに乗り込んだ。

走り出したワゴンの中で再び先ほどの携帯に登録された番号にかける。
「牧野です。予定通り今迎えに来て頂いた車に乗りました」
その後、二言、三言言葉を交わすと通話を終了し女性に携帯を渡した。
その女性はそれを受け取ると「今後はこちらをお使い下さい」と代わりに新しいスマホをつくしに手渡した。
それを受け取るとつくしは自分のスマホも女性に手渡した。
「必要なデータは取ってあとは消しています。よろしくお願いします」
「確かにお預かりして処理させて頂きます」

ワゴンは高速を一旦降りて一般道に入り、大型ショッピングセンターの広大な駐車場に止まると、その横に停まっていた別の車に女性と共に乗り換えた。
ワゴン車を運転してくれていた男性はここまでのようで、別の車両の運転席には別の男性が座っていた為、つくしはお世話になりましたと声を掛けてワゴンを降りた。

乗り換えた車はファミリーカーとして良く使われるやや大型のワゴンタイプのありふれたもので、都心部であろうと地方であろうと目立つものではなかった。
「痕跡を残さないように宿泊し施設などは使わずこのまま走り切ります。シートを倒してお楽になさっていて下さい」
つくしを守るように付き添う女性の言葉に、
「あたしは大丈夫ですけど…運転される方が大変ではありませんか?」
「ご心配なく。交代の為に2人の運転手が同乗しておりますので」
それを聞いて安心すると同時に、自分一人の為にこれだけの人が動いてくれていることに申し訳なさも感じた。
それを察したのか
「牧野様がお気になさる事はございません。これは私たちの仕事ですから」
「…よろしくお願いします」

車は静かに走り始めた。つくしの決意を乗せて…
この先に何があるか解らなくても、一から自分自身を見つめ直そう…と…



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天国の記憶10


実家で用が有るからとカレンダーの連休に合わせて申請した休暇届が受理され、しばらく会えない事を残念がるあきらをはじめとする美作一家に詫びて帰宅したつくしは、言葉通り帰省をするOLさながらラフな服装に小さなスーツケースを持って家を出た。

出がけに出会った隣人には「ちょっと田舎の両親のところに行ってきます」と声をかけた。
つくしはそのまま東京駅へと向かい、土産物を観光客に交じって見つくろっている。
電車に乗り両親の住む町に着くと、駅から30分ほどで家が見えてきた。

美作家ではつくしに内緒でガードを付けていて、今日もつくしに気取られぬようつかず離れず見守っていた者はつくしが母親に迎えられ家に入ったことを確認して美作に連絡を入れた。
労いの言葉と共につくしが帰る予定の日まではガードは良いと言われ、その場を後にした。

つくしはカレンダー通りの連休を実家で過ごし、体に気をつけてねと家族に告げて東京へ戻る。美作に伝えた日より4日早く。


休暇が明けてもつくしは出社しなかった。
今まで無断欠勤などしたことの無いつくしが電話をしても出ないことから、電話にも出られない程体調を崩したのだろうかと気掛かりなまま、ひとまず一日の仕事を終わらせる。
心配する両親の後押しもあり、あきらは就業と同時に退社し美作の単身者用社宅マンションに向かった。

コンシェルジュこそ居ないもののオートロックの社宅マンションは、通常であれば居住者以外は入ることはできない。
だが、そこは会社の管理者権限のパスカードでエントランスを通り抜け、つくしの部屋の前へと急ぐ。
部屋のインターホンを鳴らすが何の応答もない。
嫌な予感がしてドアノブに手をかけると、施錠されていないドアはあっけなく開いた。
ドクンと心臓がイヤな音を立てる。
「牧野、いるんだろ…?」
不安を否定するように声を掛けながら玄関から中へと進む。
1DKのそこは無機質な空き室になっていて、小さなダイニングテーブルの上にカードキーだけが置かれていた。

踵を返し外に向かって走り出す。
頭の中の整理がつかない。

―何が起こったんだ?

車に戻ったあきらはつくしの両親に電話をする。
しかし、何度コールしても繋がることは無かった。

*

つくしが姿を消した事にまず総二郎が気づき、類も知ることとなった。
あきらが美作の情報網を使って探す一方で、総二郎も類もつくしを探し続けていたが、行方が知れることは無かった。

既にアメリカに帰っている司には敢えて知らせることは無かった。司の多忙さは誰もが良く解っていたからだ。

季節は移り変わり、半年が経とうとしていた。
そして久しぶりにF3が顔を合わせた。

飲み物をオーダーし、目の前に置かれたそれぞれのグラスを口に運ぶ。
コトリとグラスを静かに置いたあきらが口を開いた。
「親父の指示もあって美作のシステムもフル活用して探してるんだ。…なのに見つからない…」
あきらはグラスからまた一口流し込むように飲むと再び口を開いた。

「俺が…俺の両親も含めて強引過ぎたのかも…」

類はグラスを回しカラリと氷の音を一つさせ、手元を見つめたまま。

「つくしちゃんの両親もまだみつかんねえのか?」
「ああ…」
「海外ってことは無いのか?」
「こう言っちゃ何だが、牧野の両親が国外で暮らせるとは思えない。英語すら話せないからな」

二人の話を黙って聞いていた類は手にしたグラスからロックを一息に煽った。
「不味…」
氷が解けきって薄まったそれは水っぽくてとても飲めた代物ではなかった。

「俺は諦めない。待つよ…」
ポツリと決意に満ちた声を漏らし、席を立つと類は部屋を出て行く。

「おい、類」
総二郎の声に背を向けたまま珍しく類が語る。

「俺は運命なんて信じてなかったけど、彼女に会って運命はあるんだって思ったよ。天国の記憶の中にある彼女に出会って…」
それだけ言い終えて類は帰って行った。



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天国の記憶9


それぞれが抱いた思いに斟酌することなく運命の輪は回り始めた。

会社が異なる類はともかく、あきらの秘書と言う立場ではあきらを避けることもできない。
つくしにできるのは“公私混同はしたくない”という言い訳だけ。
何を考えているのか、親友二人の気持ちを感付いた総二郎が何かにつけてつくしを彼らの集まりに誘って来ることは予想外だった。
それどころか彼らのあと一人の親友、道明寺司まで巻き込んで。

初めて会った時、司の射竦めるような視線に怯みそうになる自分を奮い立たせていたつくしだった。
だが、意外にもつくしの心の中の葛藤に気付いたのは司だった。
「俺が言う事じゃねえが…おまえは自分の心に正直に生きろよ。あいつ等は俺の大事なダチだから、牧野に心を偽って欲しくねえ…」

そういう司は父親が倒れたことで若くして会社を支えざるを得なくなり、閨閥結婚を承諾した経緯がある。親友たちには叶うならば自分のようにはなって欲しくない気持ちが強いのだろう。だが司もつくしに魅かれていたことにつくしは全く気付いていなかった。自分にはつくしを想う資格は無いと早々に自分の心に抑制をかけたのだった。

司の真っ直ぐな気性はつくしに響き、誰にも明かせなかった胸の内を吐露させた。
時折、つくしを心配して電話をかけてくる司と話す時間はひどく安らぎ、まるで頼りになる兄のように思えた。

「あたし…美作さんの事は好きです。こんなあたしに優しくしてくれます。でも…花沢さんの事も心から離れない…自分の気持ちが…よく…解らないんです…二人を目の前にすると…」

今日もつくしを心配してかかってきた司からの電話に、本音が漏れる。
つくしの言葉を黙って聞いていた司だったが、
「牧野、おまえ…」
「…はい…」
「おまえに覚悟があるなら…協力してやる。自分の気持ちを確認できるように」
「えっ?」
「おまえだけでなく、あいつらの気持ちも再確認させてやれるぜ?」
「決心がついたら俺に連絡して来い」

ツー ツー

それだけ言って切られた電話。
自分が行動すれば、この答えが見つかるのだろうか?

その夜、まんじりともせず考えたつくしは決心した。



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サボってしまいました


いつも当ブログをご訪問頂き、ありがとうございます。

平日は仕事なのでなかなかお話が書けないのですが、この2週は週末も書く時間がありませんでした。

というのも、実は友人に韓国ドラマのDVDを借りてしまったからです。
原題『名不虚傳』=邦題『医心伝心』
『Dr. Jin』のパクリみたいなお話だと簡単に説明されたのですが、最近よくあるタイムスリップもので確かに『Dr. Jin』や『シンイ~信義~』を思い出させられます。
が、これが見始めると意外に面白くて…
ハイ…しっかり観てしまいました。
お話がすすまなかった明確な原因です。
ごめんなさい。

二次は大好きですが、他にも興味を魅かれることが多い私は、ついついよそ見も多くなってしまいます。

良く言えば“多趣味”、悪く言えば“節操がない(?)”
今、ちょっと煮詰まっていて筆の進みが悪いことも“よそ見”の要因ではありますが、どうか寛大な心で見守って頂けると幸いです。

書きたい気持ちが逸って、プロットも練らず思いつきで書き始める悪い癖のせいなんですけどね。プロット練ってたら失速して書く気が失せてくるし…だから基本的に書き溜めもほとんどなし…
他の二次作家様たちはすごいです。中にはある程度かき上げてからUPする方もおられるようで…
私には無理です。
まあ、もともと駄文ですしね(笑)

ともあれ、まーこの言い訳でございました。
ご容赦を。


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まーこ

Author:まーこ
花より男子《日本版:類つく、韓国版:ジフとジャンディ》や韓国ドラマの二次小説を書いています💕

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